はじめに — なぜL2が必要なのか
イーサリアム(ETH)は世界最大のスマートコントラクトプラットフォームですが、そのメインネット(L1)はトランザクション処理能力に限界があります。ピーク時にはガス代が数十ドルに跳ね上がり、一般ユーザーにとって使い物にならない状況が繰り返されてきました。この問題を解決するために登場したのがレイヤー2(L2)ソリューションです。
L2はメインネットのセキュリティを継承しつつ、トランザクションをオフチェーンで処理することでスループットを大幅に向上させます。2026年現在、主要なL2だけでも10以上が稼働しており、各プロジェクトが独自の技術アプローチとエコシステム戦略で覇権を争っています。本稿では、特に注目すべき4つのL2 — Arbitrum、Optimism、Base、zkSync — を詳細に比較分析します。
Arbitrum — Optimistic Rollupの王者
Arbitrumは、Offchain Labs社が開発するOptimistic Rollupベースのソリューションです。2021年のメインネットローンチ以来、一貫してL2エコシステムのリーダーとして君臨しています。2026年2月時点のTVL(Total Value Locked)は約150億ドルで、L2全体の約35%を占めています。
Arbitrumの最大の強みは、成熟したDeFiエコシステムです。GMX、Camelot、Radiant Capital、Pendle Financeなど、Arbitrumネイティブの人気プロトコルが多数稼働しています。特にGMXは分散型永久先物取引所として大きな取引量を誇り、ArbitrumのDeFi活動の中核を担っています。
技術面では、Arbitrum Nitroスタックの採用により、トランザクション処理速度が大幅に向上しました。さらに、Arbitrum OrbitというL3フレームワークを提供し、Arbitrum上にカスタムチェーンを構築できるようにしています。Xai(ゲーミング特化)やSanko(ソーシャル特化)などのOrbitチェーンが既に稼働しており、エコシステムの多層化が進んでいます。
ガバナンストークンARBは2023年に発行され、Arbitrum DAOによる分散型ガバナンスが機能しています。DAOの財務には数十億ドル相当の資産があり、エコシステムの成長資金として活用されています。ただし、トークン価格はATH(最高値)から大幅に下落しており、トークン保有者へのリターンという点では課題が残ります。
Optimism — Superchainビジョンの推進者
Optimismは、同名の開発チームが手がけるOptimistic Rollupです。Arbitrumとは異なり、「Superchain」という壮大なビジョンを掲げ、複数のL2チェーンが相互運用可能なネットワークを形成することを目指しています。
OP Stackは、Optimismが開発したオープンソースのロールアップフレームワークです。このフレームワークを使って、誰でも独自のL2チェーンを構築できます。最も注目すべきは、Coinbaseが開発するBaseがOP Stackを採用したことです。この戦略的パートナーシップにより、OptimismエコシステムはBase経由の膨大なユーザーベースにアクセスできるようになりました。
2026年2月時点のOptimism単体のTVLは約80億ドルですが、OP Stack全体(Base、Zora、Mode、Worldcoinなど含む)で見ると約300億ドルに達し、事実上最大のL2エコシステムを形成しています。
Optimismのガバナンスモデルは独特で、Token House(OPトークン保有者)とCitizens’ House(公共財への貢献者)の二院制を採用しています。RetroPGF(Retroactive Public Goods Funding)プログラムを通じて、エコシステムへの貢献者に報酬を分配する仕組みは、他のL2にはない先進的な取り組みです。
Base — Coinbaseが仕掛ける大衆化戦略
Baseは、米国最大の暗号資産取引所Coinbaseが2023年にローンチしたL2チェーンです。OP Stackを基盤としており、Superchainの一員として位置づけられています。独自のガバナンストークンは発行しておらず、これがBaseの大きな特徴のひとつです。
Baseの最大の優位性は、Coinbaseのブランド力とユーザーベースです。Coinbaseの認証済みユーザー数は1億人を超えており、その一部でもBaseに誘導できれば、他のL2を圧倒するユーザー数を獲得できます。実際、2025年後半からBaseのDAU(Daily Active Users)は急増し、2026年初頭には全L2で最多のアクティブユーザーを記録しています。
TVLは約120億ドルで、Arbitrumに迫る規模に成長しています。Friend.tech、Aerodrome Finance、Degen Chainなど、Base上のプロジェクトはソーシャルとDeFiの融合を特徴としています。特にAerodrome FinanceはBase最大のDEXとして日々数億ドルの取引量を処理しています。
Baseのもうひとつの強みは、法規制へのコンプライアンスです。Coinbaseは米国で上場している規制下の企業であり、Baseもその延長線上にあります。機関投資家や伝統的な企業がブロックチェーンを活用する際に、コンプライアンス面での安心感を提供できるのはBaseならではの強みです。
一方、中央集権的なシーケンサー運用や、Coinbaseへの依存度の高さは批判の対象でもあります。分散化のロードマップは公開されていますが、実現時期は不透明です。
zkSync — ゼロ知識証明の最前線
zkSyncは、Matter Labs社が開発するzk-Rollup(ゼロ知識証明ベースのロールアップ)です。Optimistic Rollupとは根本的に異なるアプローチで、数学的な証明によってトランザクションの正当性を保証します。
zk-Rollupの理論的な優位性は明確です。Optimistic Rollupでは不正証明の期間(通常7日間)が必要ですが、zk-Rollupではトランザクションの正当性が即座に証明されるため、L1への最終確定が速くなります。また、長期的にはより高いスケーラビリティが期待されています。
zkSync Eraは2023年にメインネットをローンチし、EVM互換のzk-Rollupとして注目を集めました。2024年にはZKトークンを発行しましたが、エアドロップ後のトークン価格は低迷が続いています。TVLは約30億ドルで、上位3つのL2と比較するとまだ規模は小さいですが、技術的なポテンシャルは高く評価されています。
zkSync Hyperchains(現在はZK Chainsに改名)は、zkSync技術を使った独自チェーンを構築できるフレームワークです。Arbitrum OrbitやOP Stackと競合するこのフレームワークは、ZK技術の民主化を目指しています。
課題として、zk-Rollupの技術的な複雑さがあります。EVM完全互換の実現は技術的に困難で、一部のスマートコントラクトが正常に動作しないケースも報告されています。また、証明生成のコストが高く、手数料面でOptimistic Rollupに対する明確な優位性を示せていない状況です。
TVL・取引量・ユーザー数の比較
2026年2月時点の主要指標を比較します。TVLではArbitrumが約150億ドルでトップ、次いでBase約120億ドル、Optimism約80億ドル、zkSync約30億ドルです。日次取引量ではBaseがリードしており、Coinbaseユーザーの日常的な利用が反映されています。DAUでもBaseが最多で、約50万〜80万のアクティブアドレスを記録しています。
ただし、これらの数字は単純比較が難しい面もあります。BaseのDAUにはCoinbaseウォレットからの自動的なトランザクションが含まれている可能性があり、Arbitrumの高いTVLはDeFiプロトコルのTVLが重複カウントされている面もあります。
手数料とユーザー体験
EIP-4844(Proto-Danksharding)の導入以降、すべてのL2で手数料が劇的に低下しました。現在、一般的なトークン送金は0.01ドル未満、DEXスワップでも0.05〜0.10ドル程度です。手数料面での差別化は難しくなり、競争の焦点はエコシステムの充実度とユーザー体験に移っています。
ブリッジの使いやすさでは、Coinbaseとのシームレスな統合を持つBaseが有利です。DeFiの多様性ではArbitrumが依然としてリードしています。開発者ツールの充実度ではOptimismのOP Stackが最も成熟しています。
今後の展望 — L2の未来
L2戦争は今後もますます激化するでしょう。注目すべきトレンドとして、まずチェーン間の相互運用性があります。Superchainビジョンが実現すれば、OP Stack系のL2間はシームレスに資産を移動できるようになります。Arbitrumも同様のビジョンを持っており、L2間のブリッジの摩擦を解消する動きが加速しています。
次に、ZK技術の成熟が挙げられます。現時点ではOptimistic Rollupが優勢ですが、ZK技術が成熟すれば、証明コストの低下と性能向上により、長期的にはzk-Rollupが主流になる可能性があります。Optimism自身もZK技術の研究を進めており、将来的にはOptimistic RollupからZK Rollupへの移行も視野に入れています。
最後に、L2のコモディティ化です。Raas(Rollup as a Service)プロバイダーの登場により、独自のL2チェーンを構築するハードルが大幅に下がっています。チェーン自体の差別化は難しくなり、その上に構築されるアプリケーションやエコシステムの質が競争力の源泉となるでしょう。
まとめ
2026年のL2市場は、Arbitrum、Base、Optimism、zkSyncの4強を中心に展開しています。それぞれが異なる強みを持ち、異なるユーザー層をターゲットにしています。投資家やユーザーとしては、ひとつのL2に固執するのではなく、各チェーンの特性を理解し、用途に応じて使い分けることが賢明です。L2戦争に最終的な勝者が生まれるのか、それとも複数のL2が共存する未来が訪れるのか、今後の展開から目が離せません。


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